翻訳ラボ

Prince『ときどき四月に雪が降る』

震災直後の2011年4月にはじまった直後から聞き続けていたラジオ番組『菊池成孔の粋な夜電波』が年内で終わってしまうという告知をきいた。最初ピンとこなかったのだけど、徐々に喪失感が膨れあがってきた。たわいのない馬鹿橋のなかにふと紛れ込むウイズダムと愛情に満ちた言葉と音楽は、日常と生...

『ただ君を愛していたい』 by ポール・エリュアール

連日のポール・エリュアール。今日はプーランクが歌曲にしている詩を訳してみた。短くてつかみどころがない曲だけど、詩がいい。単純な恋の歌であるようでありながらこの世界の謎に向き合っているような奥深さを感じる。 最初のスタンザの2行目、3行目はあからさまに性的な暗喩。2連目で「君」のほか...

『魚』 by ポール・エリュアール

久しぶりにフランス語からの翻訳。nageur をどう訳すかで迷った。「泳ぐ人」だと不自然な言葉だし、カタカナで「スイマー」というのも異物感がある。日本語には適当な言葉がない。 魚、水泳選手、舟 は水の形を変える 水は柔らかくてぷるぷる動く ただし水に触れているものにとってだけ. 魚は前進する...

『日の出』

後半生作曲から手を引いてしまった作曲家というとロッシーニが有名だけど、チャールズ・アイヴズもまた1926年以降1954年に亡くなるまで作曲していない。彼が最後に作曲したといわれているのは Sunrise というピアノ、ヴァイオリン伴奏つきの歌曲だ。半音階的で不安を感じさせるメロディーはまるで一睡...

『火と氷』 by ロバート・フロスト

世界の終わりについての宇宙物理学的な詩。火=欲望=経験、氷=憎しみ=知識という対比がおもしろい。 世界は火の中で終わるという人がいる 氷の中で終わるという人もいる。 これまで味わった欲望の旨味からすると 私は火が好きな人たちの肩をもちたい。 でも世界が二度滅びなくてはいけないのなら、 私の憎...

往くことと留まることの間で by オクターボ・パス

2014年から2015年へかけての往くことと留まることの間で訳してみた。新年の挨拶に代えて。 往くことと留まることの間で 昼間は足踏みする その透明さを愛しながら。 循環する午後は今や湾だ そこでは静止した世界が揺れる。 すべては目に見えすべてはとらえどころがない すべては近くにあるのに触れる...

『これはわたしから世の中への手紙です』 by エミリー・ディキンソン

横浜で開かれた現代音楽のコンサートで歌われた詩を訳してみた。 これはわたしから世の中への手紙です 世の中の人たちはわたしに手紙をくれたことはないけど 自然が教えてくれたシンプルなニュースを ささやかな威厳とともに届けます 自然のメッセージは 目に見えない手に託されました 自然への愛に免じて、心...

『あるうまいやり方』 by エリザベス・ビショップ

twitterのTLにある詩の一部が引用されていて、いいなあと思い検索してみたら、なんと訳したばかりのエリザベス・ビショップの詩だった。 何かを失う、うまいやり方をマスターするのは難しいことじゃない ほとんどの物事はなくなるものであることを常に意識しているので なくしたとしてもそれは最...

『待合室にて』 by エリザベス・ビショップ

女の子が歯医者の待合室で離人症的な不思議な体験をする話。気軽に訳しはじめてみたが、細部の訳し方が難しくて頓挫しそうになった。でも、これは訳しておくべきなんじゃないかという使命感のようなものがここ数日でめばえ、迷いをたちきる感じで訳してみた。 マサチューセッツ州ワーセスターで コンスエ...

『一番悲しい詩』 by パブロ・ネルダ

このサイトの目下暫定の副タイトル “sad songs for sad nights” には特に意味なんてないんだけど、まあ人はなぜか悲しい歌をききたくなるよね。特に夜に。それが楽しい夜であっても、悲しい夜であっても、特にどうってことのない夜であっても。たいていの夜は特にどうってことのない夜だ。悲しい歌はそんな無色の夜に色を...

『忘れられない微笑み』 by チャールズ・ブコウスキー

たまに、ストーリーがある短編小説みたいな詩を訳してみた。 うちでは金魚を飼っていた 金魚たちはぐるぐる金魚鉢の中をまわっていた 台のテーブルのそばには厚いカーテンがあって その裏には見晴らし窓があった 母はいつも微笑んでいて ぼくらを楽しくさせたがった ぼくにこういうのだった 「楽しくしなさい、...

『30セント、切符2枚、ラブ』 by リチャード・ブローティガン

リチャード・ブローディガンの詩はこういう俳句みたいに短いものが多い。逆に訳すのが難しい……。 一応、『翻訳教室』に書いてあったことを意識して訳したつもり。 君のことをあれこれ考えながら バスに乗った 料金30セントを支払って 運転手に切符を2枚注文した その後で気がついた ぼくは ひとりぼっちだ...

『ここまできたのははじめてだ』 by e.e. カミングス

もうひとつ続いてカミングス。言葉の使い方がほんとうに美しいとしかいいようがないので、以前から挑戦しようと思っていた。恋愛をテーマにした詩ということになっているのでぼくにうまく訳せるとはとても思えないが、やれるだけやってみた。 カミングスが二番目の妻になるアン・バートンに対する恋情を...

『マギーとミリーとモリーとメイ』 by e.e.カミングス

せっかくの連休なので久々に翻訳をしてみた。夏になる前に海をみたくなった。 マギーとミリーとモリーとメイは ある日浜遊びに出かけた マギーは歌う貝をみつけて 甘い歌声に悩み事を忘れた ミリーは打ち上げられた★を助けた 光線は五本のだらりとした腕 モリーはおそろしい生き物に追いかけられた 泡を吹きな...

『雪の夜森のそばで立ちどまる』 by ロバート・フロスト

雪にちなんで、今日もまたロバート・フロストの雪に関する詩を訳しておこう。 それが誰の森なのか知っている気がした 彼の家は村の中にあるので 雪に覆われた森を見ているところを 見とがめられることはないだろう 私の小さな馬はおかしいとおもっているはずだ 近くに農家もない 森と氷結した湖のあいだで立ち...

『雪の粉』 by ロバート・フロスト

雪に関する、ある小さな救済をうたった詩だけど、それを訳すことで、雪の日を無為に過ごしてしまったぼくも救われようと思った。 カラスが ツガの木から わたしの上に 雪の粉を震いおとした それがわたしの 気分を変えた 残念な一日の 一部を救ってくれた...

『11月を生きのびる理由』 by トニー・ホーグランド

“November” で検索してヒットした詩。こういうネガティブな怒りは確かにぼくの中にもあるものだが、この詩の書き手のようにそれを強さにかえることはぼくにはできそうにない。せめて翻訳してみる。 11月は鉄道事故のようだ 寒気でできた機関車が カナダから突進してきて 百万本の樹に激突する 葉を燃やし、森に火を...

『出会いと別れ』 by ロバート・フロスト

“summer” というキーワードで検索してヒットした作品。 ぼくは壁に沿って丘をくだっていた 門の向こうを見ようとのびをして ふりかえったときあなたをはじめて見た あなたは丘をのぼっていた。ぼくたちは出会った。でもその日 ぼくたちがしたのは夏の砂の中で大小の 足跡を混ぜ合わせただけだった。まるで 二人以下で...

希望は羽のあるいきもの by エミリー・ディキンソン

久々に翻訳。 希望は羽のあるいきもの こころの止まり木にとまり 言葉のない歌を歌い 歌声がやむことはない 甘い声は強風の中でもきこえる 嵐は苛酷なのだろう ぬくもりをためこんだ 小鳥が当惑するくらい わたしはいちばん寒い国でその声をきいた 見知らぬ海の上でもきいた どんな窮地におちいっても 希望はわたし...

『昨日』 by ルイーズ・ララン

フォーレ、ドビュッシー、プーランクなどフランス歌曲ファンなので、ここらでなにかひとつ歌詞を訳してみようと物色して、最初に試したのが Paul Verlaine の 《Il pleure dans mon cœur》。これは理由なき喪失感をうたったとても切実でいい詩なんだけど、有名すぎてさんざん訳されているし、同じ内容の言い換えが多いの...