A.J.ジェイコブズ(黒原敏行訳)『驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!』

驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!

ブリタニカ百科事典を全巻読破しようとした男性のセルフ・ドキュメンタリー。典型的な小市民で、黴菌恐怖症、家族や友人に要らぬ知識を疲労して煙たがられるような情けなさをみせながらも、書斎に閉じこもるのではなく、クイズ番組に出場したり、メンサ(IQ上位2%に入る人たちの国際的社交クラブ)に加入したり、IQ上位0.0001%の人に会いに行ったり、とにかく行動的だ。情けない部分では妙な親近感を感じてしまったが、素顔はきっと優秀な編集者なのだろう。

この分厚い本の全面にちりばめられているトリヴィアを読むのもおもしろいが、そうしてある意味無駄な知識を詰め込んでいく中で、A.J.ジェイコブズはある洞察のようなものを得ていく。それは知性に対する愛と、この世界に対する愛といっていいようなものだ。

ブリタニカに載っていたというロバート・アードリーの文章を引用:

われわれは堕ちた天使ではなく進化した猿である。猿は武器を使って殺しをする。してみれば何を驚くことがあろう?殺人や、虐殺や、ミサイルや、和解を知らない敵軍同士のことで。一方、効果のほどはともかく、われわれは条約を結ぶ。まれであるにしても調和の賛歌を歌う。しばしば戦場に変わるとしても穏やかな田畑を持つ。めったに実現しないけど夢を抱く。人間が奇跡であるのは深く堕ちたからではなく、高くのぼってきたからだ。われわれが星々の間で知られるのは屍によってではなく、詩によってである。