町田康『どつぼ超然』

どつぼ超然 (河出文庫)

久しぶりの紙の本、久しぶりの日本の作家の作品、久しぶりの町田康。

一応小説と呼んでいいのだろうが、虚構の厚みが薄い作品。田宮(たみや→たみあ、逆から読めば熱海)に移り住んだ主人公が浜辺や沖合いの孤島(初島)、近所の牧場で開かれたイベント、文豪が泊まった旅館の跡の見学など、固有名詞が変えてあるので実際には使えないことを別にすれば観光ガイドと言ってもいいような内容。いつもなら日常のたたみをぶち抜いて虚構へと入り込むところを、おいたは主人公の自意識の中だけにとどめ、頑なに田宮という町の日常に留まり続ける。

それでも電車の中で読めないくらい笑ってしまうのが町田康のすごいところだ。一回しかいってないが熱海(田宮)の不思議な魅力も本書のおもしろさに貢献している。時折眠くなってしまったのは観光疲れというものかもしれない。

★★