『春琴』

『春琴』

演出・構成:サイモン・マクバーニー/世田ヶ谷パブリックシアター/S席7000円/2008-03-04 19:00/★★★

出演:深津絵里、チョウソンハ、ヨシ笈田、立石涼子、宮本裕子、麻生花帆、望月康代、瑞木健太郎、高田恵篤、本條秀太郎(三味線)

サイモン・マクバーニーの創意工夫に富んだ斬新な演出はもちろんすばらしい。だがそれ以上に素晴らしいのが谷崎潤一郎のテキストだった。読んだことないのであれだが、ほとんど寄り添うくらい原作の『春琴抄』に忠実だったようだ。原作は谷崎の分身らしき語り手が春琴と佐助の美しい(としかいいようがない)情愛の世界を物語るというスタイルをとっているが、その語り手の存在を含めて再現している。

舞台では、さらにそれをラジオドラマとして語るナレーターが登場して、ときおりはさみこまれる『陰影礼賛』からの引用などもあって、この物語をひとつの「おはなし」として相対化しつつ文化論として落とし込もうというような意図を感じてしまったりもするが、二人きりの閉鎖した息苦しい世界を演劇として成立させるためには物語の外部の存在が必要だったのだろう。

話を最初に戻すと、サイモン・マクバーニーの演出は刺激的だ。春琴役は、一応深津絵里なのだが、少女期は文楽人形、少し長じてからは、宮本裕子が人形のふりをして演じていて、深津絵里は声と人形の操作(のようなこと)をしている。深津絵里が顔を出して春琴を演じるのはほんとうに短い間だけど、短いからこそ印象的だったりする。佐助の方は三世代の役者が順番に演じるが、最年長の佐助であるヨシ笈田は常に舞台にいる。彼もまた語り手の一人なのだ(実質主演は彼だった)。