読書ノート

平田オリザ『演技と演出』

新刊の『わかりあえないことから』を買おうと思って書店にいったのだけどこちらを選んでしまった。というのも映画『演劇1』をみて、平田オリザの一見そっけない演出スタイルのどこから舞台の上のリアリティがうまれるのか謎だったのだ。 イメージを共有する難しさ。演出家がもっているイメージを観客に...

ジョン・スコルジー(内田昌之訳)『アンドロイドの夢の羊』

原題は “The Android’s Dream” だが、「アンドロイドの夢」というのは羊の品種の名前なので、邦題についている「羊」は余計というわけでもない。「羊」がついてもこのタイトルがP. K. ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』へのオマージュなのはすぐわかる。だからこそ手に取ったわけだ。内容もディック風の幻...

村上春樹『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011』

19のインタビューのうち13が海外メディアのインタビューというところが特徴的。村上春樹「作家はあまり自作について語るべきではない」と思っていて、平凡な人間である自分自身に対して出なく作品の方に興味を持って欲しいといっている。ただ、海外に対してはある種の責任感を感じるらしく、比較的...

速水健朗『都市と消費とディズニーの夢——ショッピングモーライゼーションの時代』

『思想地図β Vol.1』の特集の著者執筆パートの拡大版。経済効率の重視や市場原理の徹底によって都市の公共機能が変化し、都市がショッピングモールと一体化していく「ショッピングモーライゼーション」(著者の造語)という現象について書かれている。 第一章は、都市とその中の公共施設の変化につ...

ケラリーノ・サンドロヴィッチ『消失/神様とその他の変種』

1998年以降のナイロン100℃の本公演は再演をのぞいてすべてみているので、当然この二つの戯曲も初演時に舞台でみている。『消失』は2004年、『神様とその他の変種』は2009年。特に『消失』の方はすごい傑作だったという印象が強く残っていた。ところが、細部どころかあらすじすらまった...

コルタサル短編集(木村榮一訳)『悪魔の涎・追い求める男』

本書に所収されている『南部高速道路』という短編を長塚圭史が脚色・演出している芝居をみて、とてもよかったので、原作を読もうと思って手に取った。 初期の作品から後期の作品まで幅広くとりあげられているようだ。コルトレーンを彷彿とさせる破天荒な天才サキソフォンプレイヤーを彼の伝記作者にして...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『ブルックリン・フォリーズ』

大病から回復したばかりで家庭も仕事もなくした初老の男性ネイサンが終の住処を求めてニューヨークのブルックリンで暮らしはじめる。あにはからんや、彼は色々な人々と出会い、これまでにない経験を重ねる……。 一貫して偶然という神によってはりめぐらされた糸の精緻さと鋭い鎌の一撃を描いてきたオー...

スティーヴン・ミルハウザー(柴田元幸訳)『ナイフ投げ師』

子供のころ地面に落ちていた色とりどりの石を拾って宝物のように思ったりしたけど、一編一編がちょうどそんなきれいな小石みたいな短編集。内容も文体もふにゃふにゃしてない。硬い。硬質。物語は物語られない。博物館みたいに物語はガラスケースの中におさまっていて動かない。 『夜の姉妹団』は柴田元...

町田康『宿屋めぐり』

町田康の文章を読んでいると知らず知らずニタニタしてしまう。700ページ以上読み切る間ニタニタし通しだった。さすがにラスト近く、あまりにグロい描写が連続するあたりはそのニタニタも凍りついたが、それもやがて突き抜けた爽快感に変わる。 主の命で燦州大権現(おそらく金刀比羅宮がモデル)に守...

チャイナ・ミエヴィル(日暮雅通訳)『ペルディード・ストリート・ステーション』

『指輪物語』でトールキンが中つ国という世界を創造したように、この作品の中でも、人間を含む様々な種族が暮らし、別の力が支配する世界が創造されている。邦訳が上下巻あわせて1100ページ以上と分厚いのはこの世界の描写に紙幅が費やされているからだ。 人間の他の種族としては、身体は人間で頭部...

古川日出男『LOVE』

ぼくの中で古川日出男の作品は、好きな作品、嫌いな作品わりとはっきりわかれている。『サマーバケーションEP』は時折読み返したくなる作品のひとつだが、『聖家族』とか『ハル、ハル、ハル』は苦手だ。この本は読み始めてすぐに好きな作品に仲間入りしていた。そして、この二つのグループで何がちが...

マルセル・セロー(村上春樹訳)『極北』

文明崩壊後の極北地域を舞台に主人公メークピースの遍歴を描いた作品。類似のモチーフを扱ったコーマック・マッカーシー『ザ・ロード』みたいに徹底的なシビアな極限状況ではなく、その一歩か二歩手前。だから主人公には自由度があり、ストーリー展開が意外性に満ちている。ストーリーにひきこまれる反...

ケリー・リンク(柴田元幸訳)『マジック・フォー・ビギナーズ』

妖精、ゾンビ、ホーンティドハウス、魔女、死者の霊、剣と魔法、エイリアンという昔ながらのB級ホラー、SFおなじみの道具立てが、インターネット、コンビニ、カルト的な人気を博す連続テレビドラマなどがある現代的な設定とまじりあって。今まで読んだことのない奇妙なファンタジーをつくりあげてい...

円城塔『後藤さんのこと』

世の中に自分がわからないことがあるのを認めたくない質だ。もちろん、わからないものの方が圧倒的多数ではあるわけだが、ちゃんと時間をかけてがんばれば片鱗くらいはつかめるんだぞというポジションを確保しておきたい。もちろん、それはいつでも可能というわけじゃなく、頭がちゃんと働いている時間...

R. A. ラファティ(浅倉久志訳)『九百人のお祖母さん』

奇才と名高いラファティの短編集を今更ながら読む。表題作を含む最初の数編を読んでいるときは、確かにアイディアは突飛だし、知的ギミックにもあふれているけど。結局ただの通俗的なSFなんじゃないか思ったが、読み進めるうちに評価が一変した。ルイス・キャロルばりのナンセンスなユーモアに深い思...

円城塔『オブ・ザ・ベースボール』

ファウルズという町ではほぼ年に一度人が空から落ちてくる。主人公は彼らを救出するためのレスキュー隊員のひとりで、どういうわけか支給されているユニフォームを身につけ、バットをもち、日々訓練にはげんでいる。といっても高速で落ちてくる人にバット一本で何ができるわけでもなく、今まで救出でき...

岸本佐知子編訳『居心地の悪い部屋』

「読み終わったあと見知らぬ場所に放り出されて途方に暮れるような、何だか落ちつかない、居心地の悪い気分にさせられるような、そんな小説」ばかり1ダース集めたアンソロジー。確かに居心地は悪いけど、読み心地は絶品で、すらすらとページをめくり、あっという間に読み終えてしまった。 友達の部屋で...

アントニオ・タブッキ(和田忠彦訳)『時は老いをいそぐ』

3月の末に惜しまれつつ他界したイタリアの小説家アントニオ・タブッキの日本における最新の作品集。 収録されている短編はちょうど9つだし、タブッキ版ナイン・ストーリーズといったところか。『雲』という作品なんかは、戦場で傷ついた兵士が避暑地の海岸で小さな女の子と話すというシチュエーション...

カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)『わたしを離さないで』

エナメル質が削り取られて神経がむき出しになった虫歯のように、身も蓋もなく悲しい喪失の物語。 物語の核心にある謎というわけでは全然ないので、決してネタバレにはならないと思うのだが、この作品について触れる人は、物語の状況設定を書かないことが不文律のようになっているようなので、ぼくもその...

パウロ・バチカルビ(田中一江、金子浩訳)『ねじまき少女』

何となく手を出しそびれていたのはタイトルや帯の惹句から、一種のラノベなんじゃないかと思ったからだ。そんなことは全然なく、技術や人類の未来についてとても深く考えさせる硬質な物語だった。 舞台はおそらく今から100年後くらいのタイ。石油の枯渇、温暖化による水位の上昇、遺伝子操作による疫...