読書ノート

東浩紀『動物化するポストモダン―オタクからみた日本社会』

『自由を考える』は対談だったので、東浩紀の考えをいまひとつとらえきれなかった。その物足りなさを補うためこの本を買った。 内容はオタク系(サブカル系)の文化を分析して、そこから90年代以降の現代日本社会が向かっている「動物化」という現象をみていこうというもの。論旨を簡単にまとめてみる...

保坂和志『プレーンソング』

薄い雲のようにぼんやり広がった幸福感を描いた作品。 恋人と同棲するつもりが別れて、一人で2DKの部屋に住むことになった三十代はじめの男が主人公。場所は西武池袋線の中村橋で、おそらくこの具体的な地名も、この小説を形作る重要なファクターのひとつだ。この部屋には、それぞれの事情と怠惰と偶...

奥平康弘・宮台真司『憲法対論―転換期を生きぬく力』

奥平康弘氏というのは1929年生まれの憲法学者で、その人と30歳年下の宮台真司氏が憲法をめぐって対論している。といっても、宮台氏は、ひとつネタ振りをされると、それについて憲法と関係ないことまで語りまくっているので、奥平氏は完全に聞き役にまわってしまっている。対談のときからそうなの...

東浩紀・大澤真幸『自由を考える―9・11以降の現代思想』

最近よく名前を聞く東浩紀の本を一度読んでみたいと思って、書店の棚に積んであったのを手に取ったのだが、最近出たばかりでかなり売れているらしい。 従来の権力は規律訓練型で、個人の内面に干渉して集団の規律を守らせるようにしようとしていたけれど、「大きな物語=第三の審級=理想」の凋落ととも...

カート・ヴォネガット(池澤夏樹訳)『母なる夜』

再読。以前は飛田茂雄訳の早川文庫版で読んだが、今回は好きな作家である池澤夏樹の訳で読んでみようと思って、わざわざ買った。だが、後発ということもあってか、飛田訳の方がわかりやすかった。 アメリカ人でありながら、ナチスの対米宣伝放送を自作自演していた男キャンベル。だが、それはアメリカ軍...

保坂和志『この人の閾』

思考というのは並列的で、矛盾を含んでいるのに対し、文章は直列で、整合性がとれていなければならない。ふつう思考から文章を変換するときは、小さなもの余計なものは省いて、できるだけコンパクトにしようとするのだが、保坂和志の場合には、一見意味のないような思考の流れを切らずにそのまま文章に...

池澤夏樹『シネシティー鳥瞰図』

半額で売っていたので買ったのだが、ほとんど在庫切れ状態らしく、買って正解だったようだ。 映画評を読むのは旅行記を読むのと似ている。すでに見た映画の話は昔訪れた街の話のように懐かしいし、見たことのない映画の話はいったことのない街の話のようにエキゾチックだ。 それは実際に旅行したり映画を...

池澤夏樹『楽しい終末』

ノストラダムスの大予言はそれなりに話題になったけれど、そういうお祭り騒ぎとは別に世界がだんだん終わりに近づいているという予感は誰しも感じているのではないかと思う。そういう予感にリアリティーを与えるさまざまな問題―核、天災、戦争、虐殺、エイズ―と、それらがもたらす終末というのはいっ...

池澤夏樹『南の島のティオ』

一応童話ということになっていて、確かに設定も語り口も童話なのだけれど、むしろ大人が読んだほうがおもしろいと思う。 主人公のティオが住む南の島はとても不思議なところで、それを見たものが訪れずにはいられないような絵葉書を作るセールスマンがやってきたりとか、空中に3Dのリアルな絵を描く旅...

池澤夏樹『マリコ/マリキータ』

長編のあとには気楽な短編が読みたくなった。保守的にまず間違いなく楽しめるものということで、池澤夏樹の本を選んだ。 表題作は、最初グアム版『濹東綺譚かと思ったが、よく考えたら『ティファニーで朝食を』の方が近い。日本の名前「マリコ」と現地の人から呼ばれる名前「マリキータ」...

池澤夏樹『マシアス・ギリの失脚』

今まで読んだ池澤作品はどちらかといえば物語性が希薄で、短いものばかりだったが、これはふつうの文庫二冊分の厚さで、物語性もたっぷり。語り口がうってかわって、いわゆるマジックリアリズム的で、物語は幻想と日常という糸を縫い合わせてつむがれている。 南太平洋の小国の「やさしい独裁者」マシウ...

坂本多加雄『国家学のすすめ』

国家が共同幻想であることを認めながらも、国家というものが人々の心の中に「実在」する不可欠なものだということを説こうとしている本。主に、この本の中で「国家相対化論」、「反国家フェティシズム」と呼んでいる考え方(あまりレベルが高くなく設定されている)に対しての反論という形で書かれてい...

J.D.サリンジャー(村上春樹訳)『キャッチャー・イン・ザ・ライ』

以前野崎孝訳の『ライ麦畑でつかまえて』は読んでいたが、村上春樹訳で十数年ぶりに読んでみた。 前回はそうは思わなかったが、読み返してみると主人公のホールデンはかなりいやなやつに思えた。集団生活に適応できないことや、勉強をする意欲がないことや、酒、タバコ等の素行不良は別にどうということ...

池澤夏樹『骨は珊瑚、眼は真珠』

表題作が演劇になるというので、読んでみた。9つの短編が収められているが、まず8番目の表題作から読んだ。死んだあと骨は砕いて海にまいてほしいと言い残して亡くなった夫の視点から、妻がためらいつつもその遺言を実行するのをやさしい眼で見守る。だからといって、死後の世界とか霊魂の存在を前提...

西部邁『保守思想のための39章』

右な人たちの言い分は、その反感に満ちた語り口だけで、聞く耳をもてなくなってしまう。その点、この本は、純粋にいい意味で、奥歯にもののはさまったような語り口で書かれていたので、ちゃんと最後まで読むことができた。筆者自身も、「保守思想の陣営が、いわゆる左翼思想への反感を吐露することに終...

トルーマン・カポーティ(野坂昭如訳)『カメレオンのための音楽』

カポーティは好きなタイプの作家だが、その割にはあまり読んでいない。『夜の樹』という短編集や『ティファニーで朝食を』(原作は映画のような甘ったるいハッピーエンドではなく、それどころか恋愛ものですらない)、それにちくま文庫版の短編集くらいだ。今回読もうと思ったのも、よしもとばななの『...

姜尚中・森巣博著『ナショナリズムの克服』

偏見とか差別などのいやな感情を正論のように語る人たちが増えているような気がして、息苦しさを感じていた。その空気から抜け出す清涼剤のようなものがほしくなって買ってみた。 姜尚中という在日韓国人の政治学者と、森巣博というオーストラリア在住の作家という、いわば日本をちょっと外からの視線で...

沢木耕太郎『血の味』

少年時代に殺人を犯してしまった男の回想という形で物語は語られる。主人公の少年はどこか『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンを思い起こさせる。こちらは寡黙で饒舌なホールンデンとは正反対だが、周囲への不適応、ものの本質をみぬく大人びた視線、自分自身への苛立ちは共通だ。最初は、そういう少...

柴田敏隆『カラスの早起き、スズメの寝坊―文化鳥類学のおもしろさ』

少年時代に昆虫に興味をもったことをのぞいて生き物に興味をもったことはほとんどない。昆虫のときは、彼らにとっては迷惑な話で、ちょっとした虐殺行為をやったりした。 今なぜ鳥かというと、同じ街に棲む仲間だと思えるからだ。散歩していると、さまざまな鳥を見かける。その名前や習性を知りたくなっ...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『リヴァイアサン』

才能ある作家だったサックスという男が、いくつかの偶然の積み重ねから、幸福な家庭を投げ捨てて、全米の自由の女神を破壊してまわるテロリスト(人の命は奪わず、メディアを通じてアメリカという国のありかたを改めようというメッセージを流す)になり、結局は爆死してしまう。その事故を知った、やは...